3D建物探訪

A&Aリアムフジ

設計趣旨

官民一体となったアートによる街づくりである「岡山芸術交流」と連動した、建築家と芸術家の協働による「都市内分散型宿泊施設」の最初の一棟である。温暖化問題等、地球環境の持続可能性を共通テーマとし、協働した芸術家リアム・ギリックは気象学者真鍋淑郎による環境方程式を取り上げたが、我々建築家はグレタ・トゥンベリが糾弾する「社会的に構造化された非サスティナブルな慣習的思考」を揺らがせ疑わせる「迷う建築」を考えた。
それは地場産大断面CLTを田の字型に組んだ構造単位を三層用意し、これをその巨大な「壁=梁」の曲げ剛性を生かして適当にずらし積み重ねることで、複雑な経路選択性を持つ立体的迷宮として実現された。実際には72㎥の木材が使用されたが、これは5.2haの森林が一年間に吸収するCO2量に等しいものである。
物理的にも、社会的メッセージとしても、持続可能な社会へと向かわせるための建築/アートが、岡山の日常の只中に生まれのである。(原田真宏)

CLTの魅力について

間伐材や端材も有効活用できるCLTには様々な環境的なメリットがありますが、LIAM FUJIを実現可能にしたのは木造建築の「上下階の構造芯を通す」という大原則をキャンセルしてしまう大断面構造材ならではの「巨大な曲げ応力」と、3Dモデリング通りの精密な継ぎ手・仕口加工を可能にする「コンピュータ連動加工機の母材としての適切性」といった構造・構法的な利点によるところが大きかったように思います。CLT によって、従来の木軸構造ではなく木壁構造とでも呼ぶべき新しい構築技術が生まれ、そして同時に新しい空間構成が誕生したわけです。(原田真宏)

ホテルは旅の中にある。
そして旅の魅力は、遠く見知らぬ土地をさまようことで、日常帰属する社会の文脈や保護から離れ、世界を清新な目で眺めることにあるのだろう。しかし直に世界と接するのだから、それは喜びであるのと同時に不安でもある(だから旅の途中の安心できるシェルターとして、ホテルは重要な存在となるのだ)。この不安と喜びは、社会の既定の認知を揺るがすことで新たな視座を提示するアートの本質でもある。この意味で旅とアートは同質だ。
官民一体となったアートによる街づくりである「岡山芸術交流」と連動し、アーティストと建築家が協働する都市内分散型ホテルプロジェクト「A&A」は、岡山の日常生活の只中にアートを仕込む企てである。アートを旅と読み替え得るなら、今回実現すべきは、従来の「旅の中のホテル」の反対、つまり「旅を内包するホテル」であると考えた。

有限なホテルの中に、広大な旅の経験を折りたたむ。このために導入した原理はとても単純だ。それは、h:2600mm×t:210mmの岡山産CLT板を「田」の字型に組み、これを三段ズラしながら重ねるだけ、である。h:2600mmという壁=梁成は、その巨大な曲げ剛性と長い接合スタンスが保証する「剛」の接合によって、上下階で通り芯を共有するという木造の原則から建築を自由にし、その結果、例えば1階の第1象限の空間は、従来のように2階の第1象限のみの直下ということにはならず、2階の第1・第2・第3・第4象限と重なることになる。この関係をそれぞれ上下動線で接続し複数層重ねると、接続のバリエーションは無限に増加し(図参照)、動線はまさに旅のように延長しつつ、迷路化していく。極めて単純な構成/構築の原理が、旅の複雑な現象を生み出すのである。木の迷宮のような室内は岡山県産CLTをそのまま表しとしているが、これは外壁を波板スレート+木毛セメント版t25の認定形式で構成し、防火構造の外壁としたことで、安全かつ安価に実現したものだ。周辺の特徴のない都市景観を遮り、空へと向かう垂直の開口方向は、日常から離れた旅の経験を演出しつつ自然光をふんだんに取り込み、分厚いCLT壁の防音性能と合わせ、県庁所在地である大都市の只中にありながら、明るく静かな抽象的な空間を生み出した。

協働したアーティスト、リアム・ギリックによる巨大な文字列は、気象学者・真鍋淑郎による地球環境問題を論理的に表現した数式である。この環境問題に代表される社会的に構造化してしまった諸問題の解決には、その束縛から離れた子供のような直截で客観的な視点(例えばグレタ・トゥンベリのような)が必要となる。盲信を揺るがせるアートと、旅そのものである建築によって、人々を日常にいながらにして迷わせ、一時、社会の外部へと連れ出してしまうことを目論んだのである。

建物概要

場所 岡山県岡山市北区天神町
竣工 原田真宏+原田麻魚/MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO・リアム・ギリック(アート)
建築面積 78.08㎡
延床面積 104.99㎡
階数 地上2階
構造 木造

略 歴

マウントフジアーキテクツスタジオ
http://fuji-studio.jp/

原田真宏

1973年 静岡県生まれ
1997年 芝浦工業大学大学院建築工学専攻修了
1997年 - 2000年 隈研吾建築都市設計事務所
2001年 - 2002年 Jose Antonio Marrinez Lapena and Elias Torres Archtects
2003年 - 2004年 磯崎新アトリエ
2004年 マウントフジアーキテクツスタジオ 設立
2008年 - 2016年 芝浦工業大学 工学部建築学科 准教授
2016年 - 芝浦工業大学 工学部建築学科 教授

原田麻魚

1976年 神奈川県生まれ
1999年 芝浦工業大学建築学科卒業
2000年- 2003年 ワークショップ所属
2004年 マウントフジアーキテクツスタジオ 設立
2013年- 2014年 東北大学 工学部建築・社会環境工学科 非常勤講師
2019年- 東京大学工学部非常勤講師

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